先週の2022年5月29日に第三十四回文学フリマ東京が開催されました。僕も例年通り変態美少女ふぃろそふぃ。として参加し、いろいろな企画を行ったので概要を記しておこうと思います。
新刊のこと
内容
今回は「光速感情デラックス」というタイトルの合同誌を新刊として頒布しました。
「光よりずっと向こうに行けたらいいね」
光速感情デラックス 特設サイト
こちらは、定期刊行している合同誌「りりよる」シリーズの第7弾です。プロ/エピや巻末付録を含めて6人が1作品ずつ投稿してくれました。詳しい内容などについては、特設サイトや告知記事をご覧ください。
変態美少女ふぃろそふぃ。では、必ずしも「百合」という言葉に対して「女性同士の人間関係」を求めてはいないので、この合同誌も百合の一部をなすものとして発行されています。
「百合」とは: かつての「百合」は、無責任な拡張と恣意的な適用によって「女性同士の人間関係」というほとんど意味のないラベルに変質してしまいました。この歴史を踏まえ、現在ではより広く「既存の強力な異性愛規範を要求しない全ての人間関係(やその物語)」を指していると考えられています。
HentaiGirls@Lily
しかし、これはエンパワ物語であるという意味ではないことに注意してください。私たちは百合に取り組んでいるのであり、男性の粗暴さを強調したり暴力性を貶めるために活動しているわけではありません。
頒布形態
/* 詳しくは文フリ34のふりかえり(ポストカード編)をお読みください。 */
新刊「光速感情デラックス」は、PDF版をダウンロードできるQRコードを記載したポストカードで頒布を行いました。前回と同様に、購入者に印刷版チケットを提供しています。
通信面および宛名面のデザインはごまふわラビによってCC BY 4.0でライセンスされています。
このポストカードは、第二種郵便物として郵送可能な私製はがきになることを目指しています。つまり、大きさや重さ、郵便番号の枠や切手の位置などに注意して作られています。
なお、通常の「光速感情デラックス」ポストカードには切手の位置に印刷版チケットが貼付されており、郵送に供することはできません。しかし、購入者にはさらに追加で1枚印刷版チケットが貼られていないものを配布していますし、ポストカードのみ1を購入することでも郵送可能なものを入手できます。
ポストカードに記されている地図は迱里ヶ崎にある変態美少女ふぃろそふぃ。のアトリエのものです。宛名面に作品のタイトルやサークルの情報を掲載することで、本来は味気ない電子版の配布ポストカード2に潤いを与え、まるで個展の告知はがきのようなワクワク感を演出しています。
【PR】変態美少女ふぃろそふぃ。では、綺麗な海の見えるアトリエからみなさんに素敵な百合を届ける活動を続けています。
「光速感情デラックス」ポストカードより
同人誌の発行において、印刷版を提供するか、あるいは電子版を提供するかを判断するのは非常に難しいことです。頒布の方向性を決める重要な決断ですし、許容できるリスクと求めるリターンはサークルによって異なります。その中で、個々人が抱えるリスクを最小限に抑えてハイブリッドな発行形態を提供できるのは、いいとこ取りの選択といえるでしょう。
ダウンロードシステム
/* 詳しくは文フリ34のふりかえり(ダウンロードシステム編)をお読みください。 */
電子版を提供するにあたって重要なのは、ファイルの配信方法です。PDFやEPUBなどのフォーマットで記録されたコンテンツは、読者が持つPCやスマートフォン、電子書籍リーダーなどのデバイスで読み込まないと利用できません。
コンテンツが紙に記録された状態で頒布される印刷版と素朴に対比すると、フロッピーディスクやCD-R(OM)、SDカードやUSBフラッシュドライブなどの記憶装置にコンテンツを記録して頒布する、という方法(メディア配布方式)を思いつきます。しかし、このようなメディアはしばしば読み取りに手間がかかり、特にスマートフォンでの利用には不便です。
そのため、最近ではURLやパスワードを記載したポストカードやパンフレットなどを配布し、読者に好きなデバイスでダウンロードしてもらう方法(ダウンロードリンク方式)が一般的になっています。新刊「光速感情デラックス」や準新刊「先輩、今日もいいですか」でも、この方式を採用しています。
ダウンロードリンク方式では、受け取ったメディアそのものにはコンテンツが記録されていないので、経年によるリンク切れなどに備えて確実にファイルを入手しておく必要があります。メディア配布方式は印刷版の電子化にあたる方式ですが、ダウンロードリンク方式はむしろ本との引換券のような性質を持っているからです。
今回の新刊「光速感情デラックス」の電子版配信では、Cloudflare Workers+KV+R2で1つのファイルに対して複数のパスワードを設定できるダウンロードシステムを用意しました。
興味があれば、実際の光速感情デラックス配布ページをご覧ください。このシステムを通じて、ポストカードに貼付された印刷版チケットの変更用トークンでPDF版をダウンロードできるようになっています。
無人販売のこと
/* 詳しくは文フリ34のふりかえり(無人販売編)をお読みください。 */
今回の文学フリマ東京では、2ブース(長机1つ分)を利用して無人販売風の展示を行いました。これは、見本誌の展示とタブレットを使った注文システムを1ブースにまとめ、その横のブースで会計と作品の受け渡しを行うという企画です。
この企画は、変態美少女ふぃろそふぃ。が推進しているブース無人化計画の一部です。最終的には1ブースで(補助輪のない)無人販売を行い、準備完了後から片付け直前まで無人で頒布が成立することを目指しています。今後はタブレットによる注文システムだけではなく、カプセルトイやカードダスの販売機のようなものを設置したりするかもしれません。
変態美少女ふぃろそふぃ。では、ブースに(少なくとも人間の)売り子を置かずに済むようにすることを中長期的な目標に置いています。ただ作品を手渡したり、金銭の勘定をすること自体はあまり重要ではないからです。極端な例を出すと、ブース設営が終わったら会場を抜け出して大井競馬場に遊びに行くことさえできるようにすべきだと考えています。
あまねけ!ニュースレター #11
今回の無人販売注文システムは、Flutterで書かれた注文アプリとPython(Tornado)で書かれた注文サーバーで構成されています。ブース内で注文システムを完結させるために3、有人ブースに置いたノートPCで注文サーバーを立てて、モバイルホットスポット経由で注文アプリと通信するよう設計しましたが、ファイアウォールの設定などで手間取ってしまった部分がありました。
また、注文中に「カードを取って裏の番号を入力する」という手順があったのですが、多くの人がカードを見つけられずにまごついていました。これは、スペースの都合でカードをタブレットの近くに置くことができなかったせいだと思われます。この番号入力方式自体は、事前に用意したカードのみで注文を識別できる4のでレシートプリンタを置かずに済むという画期的なアイデアだったものの、UIや物理的配置に少し反省点が残りました。
動画内の画像(「光速感情デラックス」表紙・ポストカード宛名面デザイン、「先輩、今日もいいですか」表紙、「花・カフェ・宝くじ」表紙)はそれぞれごまふわラビによってCC BY 4.0でライセンスされています。
Isabella the Monero Girlは何らかのライセンスの下で提供されているものではありません。
この注文システムで最もクールなのは、Moneroでの会計に対応しているという点です。その場で為替レートを取得して、1円未満の差は四捨五入して表示しています。支払額は会計時点で固定され、その後の変動は反映されません。注文から1時間以内に受け取ることをお願いしているので、為替変動幅がそれほど大きくなることはないという想定です5。
ポスター展示企画のこと
ポスター展示企画は、フローチャートボードの発展として考案された取り組みです。本来は数枚のポスターを順番に掲示したり、いわゆるポスターセッションのような来場者に向けた解説を行う予定でしたが、寄稿予定者の都合が合わず今回は1枚だけの展示となりました。
このポスターデザインはごまふわラビが制作したものであり、何らかのライセンスの下で提供されているものではありません。
こちらは、第三十一回文学フリマ東京で発行されたnext kawaii inversionの表紙に描かれた白い猫のようなキャラクター「機械ネコ」についての解説ポスターです。ローソンのマルチコピー機を利用して、A3プリント4枚(480円)を貼り合わせたA1ポスターに仕上がっています。ふつうのA1ポスターの印刷には2000円・1日~程度かかるので、ちょっとした急ぎの展示にとてもおすすめです。
ポスター展示企画では、今回のように自分が書いた作品についてのストーリー解説や背景知識の紹介はもちろん、架空の作品や事物についての解説や、事実・虚構・予言を問わず来場者に知識を伝えるあらゆる内容を展示できます。今後も展示方法や内容を検討しながらシリーズ化する予定ですので、ポスター制作に興味のある方や来場者に解説したいことがある方は、ぜひ次回の企画にご参加ください。
ちなみに、次回から文学フリマ東京は前置の漢数字ナンバリング(第◯◯回文学フリマ東京)から後置のアラビア数字ナンバリング(文学フリマ東京◯◯)に変わるらしいです。ソートしたら他地域の文学フリマと混ざって面倒になったのかもしれませんね。文学フリマ東京35は2022年11月20日開催予定です!
[PR] 新刊「光速感情デラックス」が出たので、ぜひ読んでください。
この表紙画像はごまふわラビによってCC BY 4.0でライセンスされています。
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本編を読むためのパスワードが貼付されていません。 ↩
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単に片面に表紙とQRコードを刷っただけで、それ単体で見ると つまらない ポストカードを指しています。 ↩
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アプリとサーバー間の通信速度向上やモバイル回線の切断に備えるため。 ↩
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Dammアルゴリズムによるチェックディジットを採用しており、手入力による間違いもある程度防げるようにしました。 ↩
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注文時点の為替レートで支払額を固定して、一定時間内に支払いを完了することを求める方式は、coinpaymentsなどの仮想通貨決済代行でも採用されています。 ↩